雇用関係の各種助成金は、「返済不要!」「もらわなければ損!」ということで、私たち社会保険労務士が経営者のみなさまにお勧めすることがありますが、助成金受給のために会社の規則を従業員の有利な方向に変えてしまったりすると、あとからジワジワと会社負担が増えていき、これは大変だとなる場合もありますから要注意です。
パートタイマーを正社員化する「均衡待遇・正社員化推進奨励金」の例で考えてみましょう。
これは、正社員へ転換するための試験制度を導入し、実際に1人以上転換させた事業主に支給するもので、中小企業の場合は1人目が40万円、2人目から10人目までが20万円支給されます。
≪A社の例≫
パートタイマーの鈴木さんと田中さんがいたとします。
どちらも1日4時間労働、週4日勤務で1カ月の賃金が8万円(2人で16万円)です。
→鈴木さんを試験制度により正社員として雇用し、月給は16万円とします。
→田中さんは、契約更新しない(雇い止め)とします。

これで、
・毎月の人件費は16万円で変わりなし。
・助成金を40万円受給。
⇒だから得‥となるでしょうか。
これでメデタシとはなりません。それは、下記のような会社の負担増が考えられるからです。
・新たに鈴木さんに社会保険料(健康保険と厚生年金、2つの合計で保険料率約25%)が発生。
16万円×25%=4万円 このうち会社が半額負担ですから2万円、
1年では2万×12=24万円の負担。
・新たに鈴木さんにボーナス+社会保険料が発生。
夏、冬それぞれ1カ月分として16万×2=32万円。
さらに、このボーナスにも上記と同じ率の社会保険料が発生しますから、会社負担分は2万×2=4万円。
・正社員は簡単に解雇できないというリスクが発生。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)
たとえば6カ月契約、1年契約のように契約期間が決まっているパートタイマーは、その期間が終われば以後は契約しない(雇い止め)ということができますが、期間の定めがない正社員の場合は、上記労働契約法にある通り、簡単には解雇できません。
・その他、退職金の支払いが発生。
助成金の受給額と、新たに発生する会社の負担を比べてみていかがでしょうか?
はじめに雇用計画があって、ちょうどそれに対応した助成金があるからもらう、というなら問題ありませんから、大いに利用すべきです。
そうではなく、助成金目当てに人を雇用したり、就業規則を従業員に有利な方向に改訂したりするのなら本末転倒です。思いがけず負担増になっても、簡単には元にもどせなくなります。
上記の例で、鈴木さん一人だけが正社員になるならまだいいのですが、助成金をもらうために正社員への転換制度を導入して、パートタイマーが10人に1人くらいの割合で正社員化していったら、そして社会保険料やボーナス、退職金の負担が増えたら‥‥それで3年先、5年先も経営的にだいじょうぶでしょうか?
会社が成長期で、いい人材をどんどん採りたいというような状況であればいいのですが。
当オフィスでも助成金の申請手続きをしておりますが、とくに人を雇用(正社員化)したらもらえる助成金は、雇用したあとの負担増も考えなければなりません。1日8時間の仕事を一人の正社員でやるのとパート2名で4時間ずつやるのと、会社の利益を考えたらどちらがいいのか。
当オフィスでは、新たな雇用なし(定年を延長する、育児休暇を取りやすくするなど)でももらえる助成金をまず検討してみます。雇用を伴うものは、経営者様と慎重に相談させていただき、結果として、助成金の申請はやめるという判断もあり得ます。
〈参考〉
厚生労働省の助成金ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/